# 三平方の定理と分散 ― 「なぜ二乗で足せるのか」という本質

**対象読者**

- 中学生〜高校生レベルで三平方の定理や平均・分散を学んだことがある人
- 「分散と標準偏差の違いって何？」と疑問に思ったことがある人
- 数学や統計を学ぶ上で、公式の丸暗記ではなく“なぜそうなるか”を知りたい人
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## 1. 三平方の定理を思い出す

三平方の定理は次の式で表される。

$$
c^2 = a^2 + b^2
$$

ここで $c$ は斜辺、$a, b$ は直角に交わる二辺。
「長さそのもの」では足せないが、「二乗」にすれば足し算ができる。
これは、直角だからこそ交差項が消えるためである。

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## 2. 分散の定義

確率変数 $X$ の分散は

$$
\mathrm{Var}(X) = E[(X - E[X])^2]
$$

と定義される。
平均からのズレを二乗して、その平均を取ったもの。
標準偏差はその平方根。

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## 3. 分散の足し算の実際の式

二つの確率変数 $X, Y$ の和の分散は次のように展開できる。

$$
\begin{aligned}
\mathrm{Var}(X+Y) 
&= E\big[(X+Y - E[X+Y])^2\big] \\
&= E\big[(X - E[X] + Y - E[Y])^2\big] \\
&= E[(X-E[X])^2] + E[(Y-E[Y])^2] \\
&\quad + 2E[(X-E[X])(Y-E[Y])] \\
&= \mathrm{Var}(X) + \mathrm{Var}(Y) + 2\mathrm{Cov}(X,Y)
\end{aligned}
$$

ここで $\mathrm{Cov}(X,Y)$ は共分散。
もし $X, Y$ が独立なら $\mathrm{Cov}(X,Y)=0$ なので、

$$
\mathrm{Var}(X+Y) = \mathrm{Var}(X) + \mathrm{Var}(Y)
$$

となる。

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## 4. 三平方の定理との対応

三平方の定理を内積で書き直すと

$$
\|a+b\|^2 = \|a\|^2 + \|b\|^2 + 2\langle a, b \rangle
$$

直角なら $\langle a,b \rangle = 0$ だから、

$$
\|a+b\|^2 = \|a\|^2 + \|b\|^2
$$

となる。
これはちょうど、分散の式から共分散が消える構図と同じである。

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## 5. 標準偏差ではなく分散を使う理由

- 分散は「二乗」の形なので、足し算がきれいに成り立つ。
- 標準偏差は平方根を取ってしまうため、上のような単純な式は得られない。
- 理論や計算では「二乗の世界」での線形性が圧倒的に扱いやすい。
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## 6. 本質をさらに深く学びたいなら

ここまでの話では「内積の線形性」を当たり前のものとして使った。
もっと根本的に「なぜ二乗すると足せるのか」を掘り下げたいなら、次のテーマが関わってくる。

- **内積空間**
ベクトルの長さや角度を「内積」という仕組みで統一的に扱う考え方。
三平方の定理は、この内積の性質から自然に導かれる。

- **ヒルベルト空間**
内積空間を無限次元まで拡張したもの。
フーリエ解析や量子力学などで基盤になり、有限次元のユークリッド空間もその一部として含まれる。

つまり「分散がなぜ二乗で扱いやすいのか」を徹底的に抽象化すると、ヒルベルト空間という枠組みに行き着く。
これは大学の数学科や理論物理で学ぶ内容だが、背後には「三平方の定理と同じ構造が無限次元でも通用する」という普遍性がある。

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## 7. まとめ

- 三平方の定理と分散の性質はどちらも「二乗すれば足し算ができる」という共通点を持つ。
- その理由は、内積の線形性によって交差項が整理されるから。
- 標準偏差は直感的に便利だが、理論や計算の基盤では分散が優先される。
- さらに深く学ぶなら、内積空間やヒルベルト空間が「なぜ二乗が本質なのか」を説明してくれる。
**分散が扱いやすい理由は、三平方の定理が二乗で足せる理由と同じであり、その背景は「内積がもつ線形性」にある。**
