導入
次の無限和を求めたい。
各項に が掛かっているため、通常の等比級数の公式では直接処理できない。
このとき有効なのが「等比級数を変数 で微分する」という方法である。
---
補足:「閉じた形」とは
閉じた形(closed form) とは、無限和や極限を残さず、有限な既知の関数で表した式を指す。
例えば
は閉じた形である。
---
ステップ1: 基本となる等比級数
基本の等比級数は
である。
ここから導かれる和は の項が消えるため、実質的には から始めても同じになる。
したがって、以降は表記を整理して
として扱う。
---
ステップ2: 微分によって目的の和を得る
に関して微分すると
となり、求めたい が現れる。
指数が前に出る規則は、例えば の「2」が一般の指数 に置き換わったものと考えればよい。
---
ステップ3: 閉じた形の導出
すでに が閉じた形で分かっているので、その導関数を計算すればよい。
---
ステップ4: 有限和からの確認(商の微分を省略せず記す)
無限和を直接微分することに不安があれば、有限和から始める。
は多項式(右辺は有理関数)なので微分可能である。ここで、左辺からの微分と右辺からの微分をそれぞれ計算し、一致を確認する。
左辺(項別微分:多項式ゆえ正当)
ここで行っている「各項を で微分して和を取る」手続きを 項別微分 と呼ぶ。有限和なら常に正当化され、無限和でも一様収束などの条件下で正当化できる。
右辺(商の微分)
商の微分公式 を用いる。
まず
したがって
分子を展開・整理すると
よって
一致の確認と極限
以上より
ここで とすれば、 の範囲で なので
この流れにより、無限和の式が厳密に正当化される。
---
ステップ5: 別解 ― 「ずらして引く」方法
微分を使わずに処理することもできる。
次を考える。
ここで添字をずらして
右辺第2項を変形すると
したがって
ここで等比級数の公式を使うと
よって
が得られる。
---
まとめ
-
微分は添字 に対してではなく、変数 に対して行っている。
-
和を取った結果は の関数であり、 は連続的に変化できるため微分が可能である。
-
第0項は常に 0 なので、以降は一貫して で表記する。
-
有限和では各項を で微分できる(これを項別微分と呼ぶ)。無限和についても収束範囲内なら項別微分が正当化される。
-
微分を使う方法でも、ずらして引く方法でも同じ結論に到達する。
結論として、
が成り立つ。