三平方の定理と分散 ― 「なぜ二乗で足せるのか」という本質

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対象読者

  • 中学生〜高校生レベルで三平方の定理や平均・分散を学んだことがある人
  • 「分散と標準偏差の違いって何?」と疑問に思ったことがある人
  • 数学や統計を学ぶ上で、公式の丸暗記ではなく“なぜそうなるか”を知りたい人

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1. 三平方の定理を思い出す

三平方の定理は次の式で表される。

ここで  は斜辺、 は直角に交わる二辺。
「長さそのもの」では足せないが、「二乗」にすれば足し算ができる。
これは、直角だからこそ交差項が消えるためである。

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2. 分散の定義

確率変数  の分散は

と定義される。
平均からのズレを二乗して、その平均を取ったもの。
標準偏差はその平方根。

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3. 分散の足し算の実際の式

二つの確率変数  の和の分散は次のように展開できる。

ここで  は共分散。
もし  が独立なら  なので、

となる。

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4. 三平方の定理との対応

三平方の定理を内積で書き直すと

直角なら  だから、

となる。
これはちょうど、分散の式から共分散が消える構図と同じである。

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5. 標準偏差ではなく分散を使う理由

  • 分散は「二乗」の形なので、足し算がきれいに成り立つ。
  • 標準偏差は平方根を取ってしまうため、上のような単純な式は得られない。
  • 理論や計算では「二乗の世界」での線形性が圧倒的に扱いやすい。

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6. 本質をさらに深く学びたいなら

ここまでの話では「内積の線形性」を当たり前のものとして使った。
もっと根本的に「なぜ二乗すると足せるのか」を掘り下げたいなら、次のテーマが関わってくる。

  • 内積空間

    ベクトルの長さや角度を「内積」という仕組みで統一的に扱う考え方。
    三平方の定理は、この内積の性質から自然に導かれる。

  • ヒルベルト空間

    内積空間を無限次元まで拡張したもの。
    フーリエ解析や量子力学などで基盤になり、有限次元のユークリッド空間もその一部として含まれる。

    つまり「分散がなぜ二乗で扱いやすいのか」を徹底的に抽象化すると、ヒルベルト空間という枠組みに行き着く。
    これは大学の数学科や理論物理で学ぶ内容だが、背後には「三平方の定理と同じ構造が無限次元でも通用する」という普遍性がある。

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7. まとめ

  • 三平方の定理と分散の性質はどちらも「二乗すれば足し算ができる」という共通点を持つ。
  • その理由は、内積の線形性によって交差項が整理されるから。
  • 標準偏差は直感的に便利だが、理論や計算の基盤では分散が優先される。
  • さらに深く学ぶなら、内積空間やヒルベルト空間が「なぜ二乗が本質なのか」を説明してくれる。

    分散が扱いやすい理由は、三平方の定理が二乗で足せる理由と同じであり、その背景は「内積がもつ線形性」にある。


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